【なわけ無い】太古代の上部マントルは部分溶融状態?



「太古代の上部マントルは部分溶融状態!」って主張のネイチャージオサイエンスの2018年しょっぱなの論文がTwitterで地味にバズってたので、ちゃんと読んでみた。
書誌情報: Andrault, D., Pesce, G., Manthilake, G., Monteux, J., Bolfan-Casanova, N., Chantel, J., ... & Hennet, L. (2018). Deep and persistent melt layer in the Archaean mantle. Nature Geoscience, 1.
端的に言うと、この主張はチョット間違ってます。
内容は良いんですよ、マントル物質の相図を改良しましたよってところまでは。そういう地味だけど大事な仕事は積み重ねっって行って欲しい。
そこから先、 「高温高圧実験したらソリダスが思ってたよりは低かったよ、
Hertzburg et al. (2009)のあの有名なマントルポテンシャル温度を信じると、
マントル上部のかなりの場所が部分溶融状態になっちゃうよ」
と主張している。
そこで比較してみてみましょう、このPesce et al. (2018)とHertzburg et al.(2010)の図(℃とKの違い注意)



Hertzburg et al.(2010)の図を見れば分かる通り、Non Arc basaltから見積もられる温度を見ると、全球ポテンシャル温度1900Kはだいぶ高温側に盛ってますねえ。もっと低温側にも沢山データのプロットがあります。
ずっと昔から言われていることで、マントル温度史は常に極めてギリギリの問題なのです。少し高温にすると簡単にマグマオーシャンになってしまいます。
コマチアイトは論外に高温で別枠なので、一般にプルームで局所的に高温のところでできたであろうと言われています。
もしコマチアイトに近い組成のもので見積もったマントルポテンシャル温度が全球的なものだとしたら、この研究がなくても上部マントルは部分溶融状態になっちゃいます。
今のマントルだってMORも沈み込み帯もホットスポットもなんでもあってこんだけ温度不均質があるんだから、太古代だって当然そうだったんでしょうね。
コマチアイト吹くくらいだから今より過激だったかもしれないけど、高温側の値を取って全球を話すのは都合が良すぎるでしょう。
この論文では、上部マントルが部分溶融状態だったらプレート沈み込みナシでスタグナント・リッドの状態のほうが太古代のテクトニクスの説明に都合が良いとしていますが、むしろ高温で柔らかなマントルだったらプレート運動を助けるんじゃないかな?
太古代のプレート沈み込みが制限されていたと主張する人たちは、ガチガチに硬いテクトスフェアができてしまうからスタグナントリッドと考えざるを得ないというような理由を挙げていたのだから、この論文はそれに真っ向から対立する結果でむしろプレート沈み込みをサポートする方向になるんじゃないかな。
いずれにしても、Natureの論文ではデータそのものには重要な意味(新規性)があっても、議論がトバシのようになってしまうこういうことはありますね。気をつけましょう。


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