閉鎖温度は誰が決めたのか


閉鎖温度(閉止温度)とは、鉱物や岩石の年代測定に出てくる用語で、「ある温度以下で元素移動がなくなったとみなすことができる温度」のことです。
年代測定をやっていると、みんなさも当たり前のように「~~の閉鎖温度は◯◯℃で…」と話しているし論文にも教科書にも書いてあるけれど、その◯◯℃はどうやって決めたのか?

気になってとりあえず日本地質学会のフィールドジオロジーシリーズ『層序と年代』を開いたらあっさりそれっぽい答えが書いてありました。

早速答えてしまうと、"closer temperature"という概念を使い始めたのはDodson (1973)のようです。
年代測定はそれよりもずっと前の1950年代には始まっていたので、なんとなく物理的な概念として閉鎖温度というものがあることはみんな知っていただろうけど、それをはじめてちゃんと理論的に検証したのがこの論文のようです。
Dodson, M. H. (1973). Closure temperature in cooling geochronological and petrological systems. Contributions to Mineralogy and Petrology, 40(3), 259-274.
この論文では、閉鎖温度が鉱物の拡散係数、粒径、形状、冷却速度の関数であることを示しています。70年代初頭なので、主にK-ArとRb-Srについて考えているようなイントロになっています。計算式がすごくたくさん出てくる論文です。

一方で、同じ頃から地質記録を元に鉱物ごとの元素移動と年代値についての検討もされています。
特にジルコンについて挙げると、以下のような感じ。
Gulson, B. L., & Krogh, T. E. (1973). Old lead components in the young Bergell Massif, south-east Swiss Alps. Contributions to Mineralogy and Petrology, 40(3), 239-252.

Pankhurst, R. J., & Pidgeon, R. T. (1976). Inherited isotope systems and the source region pre-history of early Caledonian granites in the Dalradian Series of Scotland. Earth and Planetary Science Letters, 31(1), 55-68.

70年代後半から80年代中盤にかけて、様々な壊変系列の年代測定について閉鎖温度の理論的な検討と地質証拠との対比が整ってきます。
Harrison, T. M., & McDougall, I. (1980). Investigations of an intrusive contact, northwest Nelson, New Zealand—I. Thermal, chronological and isotopic constraints. Geochimica et cosmochimica acta, 44(12), 1985-2003.
Dodson, M. H., & McClelland-Brown, E. (1985). Isotopic and palaeomagnetic evidence for rates of cooling, uplift and erosion. Geological Society, London, Memoirs, 10(1), 315-325.

90年代には合成ジルコンを使ったりして、実験で閉鎖温度を求めようとする研究も見られます。
日本地球化学会の雑誌Geochemical Journalに掲載のSuzuki et al. (1992)が貢献したりしてる模様です。
Lee, J. K., Williams, I. S., & Ellis, D. J. (1997). Pb, U and Th diffusion in natural zircon. Nature, 390(6656), 159.
Cherniak, D. J., & Watson, E. B. (2001). Pb diffusion in zircon. Chemical Geology, 172(1-2), 5-24.


閉鎖温度とひとくちにいっても、流体の存在など条件によって変わってしまいます。
その辺りの事情をよくまとめてる良さげな論文があったので、最後に紹介。
Mezger, K., & Krogstad, E. J. (1997). Interpretation of discordant U‐Pb zircon ages: An evaluation. Journal of metamorphic Geology, 15(1), 127-140.


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