鮮やかな緑色の
アベンチュリンや
フクサイトが、各地のミネラルショーで比較的安価にたくさん売られていますよね。原石も研磨品も装飾品もあります。
なかでもブラジルのミナスジェライス州産とされるアベンチュリンやフクサイトをたくさん見かけるのですが、詳細な産地がわかりません。
こういうアベンチュリンとか↓
こういうフクサイトとか↓
研磨品だとこんなのとか(これはアマゾンへのリンク、産地不詳)↓
こういったブラジルのアベンチュリンやフクサイトの詳細な産地名がとても気になります。どんな鉱山で掘っているのやら。
しかしmindatでさえ、fuchsiteと検索しても、ブラジルのものの産地名はMinas GeraisとかBahiaとかしか出てきません。
Fuchsite:
https://www.mindat.org/min-1617.html
Aventurine:
https://www.mindat.org/min-436.html
なぜこんなに産地を気にしているかと言うと、おそらくこの石は
#たのしい太古代 の
砂岩が起源だと思われるからです。
アベンチュリンの"まともな"産地として、インドがあります。
ここで採れるアベンチュリンは約30億年前の
クォーツァイト(石英質砂岩)です。
ARGAST, S. (1995). Detrital origin of fuchsite-bearing quartzites in the western Dharwar craton, Karnataka, India. Journal of the Geological Society of India, 45(5), 559-575.
同様の産状のアベンチュリンは、南アフリカのカープファール地塊や、カナダやグリーンランドの北アトランティック地塊でも産します。
アベンチュリンに限らず、太古代の堆積岩は全体的に後の時代と比べてクロム濃度が高いという特徴があります。(e.g.
Condie, 1993)
これは太古代の地表には
コマチアイトのような超苦鉄質岩が多量に噴出していたことから、
クロム鉄鉱のようなクロム鉱物もたくさん地表にあったと考えられています。
上記のmindatのフクサイト産地一覧の中からブラジルの産地をあれこれ見てみましたが、太古代の産地は含まれているものの、金山の産地が多い(というかほとんど)という特徴が見受けられます。
そもそも売っているフクサイトやアベンチュリンが本当にこれらの産地と関わりのあるものかわかりません。
が、もしブラジルのフクサイトが金山を形成した熱水活動を起源にもつならば、インドのような石英質砂岩のアベンチュリンとは別の成因のものということになってしまいます。
日本では長野県の金鶏鉱山などで知られているように、超苦鉄質岩に熱水や変成流体などによってシリカがもたらされるとフクサイトを含む
石英脈や
炭酸塩脈が形成されることがあります。こういった石はリストワナイト(Listwanite, あるいはリストヴェナイトListvenite)と呼ばれています。
いや、さすがに石の雰囲気からして、リストワナイトはないか……やっぱり砕屑性の石英質砂岩起源だろうなぁ……
と思いつつ、一向に良い手がかりがつかめずにいます。
いっそ、手元のアベンチュリンを粉砕して、重鉱物分離、
ジルコン年代測定でもやったほうが早く答えが出るかもしれない…
とりあえず、初めてだけど、mindatのフォーラムに質問投稿とかしてみようかな。
もしブラジルのアベンチュリンの産地や鉱山について詳しいことをご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください!
【追記 20200524】
ブラジルのアベンチュリンの謎について、某T先生から連絡が来て、「ブラジルのアベンチュリンのでどころは、おそらく、 São Francisco Craton(サオフランシスコ地塊)を覆うJacobina Group (ジャコビナ層群)のSerra do Córrego Formation (セラ・ド・コレゴ層)だと思います」とのことでした。堆積年代の推定幅がかなり大きな地層で、以前はジルコン年代から20億年前くらいとされていたものの、下記の論文では砕屑性ジルコンは34-33億年前のものばかりが見つかっており、また黄鉄鉱からは硫黄の非質量依存同位体比分別(MIF)が見つかっており、少なくともGOE以前に堆積したはずのものであり、古い先行研究のジルコン年代はおそらく変質を受けたものを測ってしまってたのだろうと結論付けられています。もし30億年前くらいのものであれば、上述のインドの石英質砂岩と近い性質のものであるかもしれません。
Teles, G. S., Chemale Jr, F., Ávila, J. N., Ireland, T. R., Dias, A. N., Cruz, D. C., & Constantino, C. J. (2020). Textural and geochemical investigation of pyrite in Jacobina Basin, São Francisco Craton, Brazil: Implications for paleoenvironmental conditions and formation of pre-GOE metaconglomerate-hosted Au-(U) deposits. Geochimica et Cosmochimica Acta, 273, 331-353.
https://doi.org/10.1016/j.gca.2020.01.035
Teles, G., Chemale Jr, F., & de Oliveira, C. G. (2015). Paleoarchean record of the detrital pyrite-bearing, Jacobina Au–U deposits, Bahia, Brazil. Precambrian Research, 256, 289-313.
https://doi.org/10.1016/j.precamres.2014.11.004
地質学的な背景はさておき、アベンチュリンについて考えると、紹介していただいた論文には、たしかに"The quartzites of the Serra do Córrego Formation can be white, greenish, or reddish, depending on the amount of fuchsite or the degree of oxidation"と書いてあります。しかし、論文に示されている露頭写真の図は、「緑味を帯びている」というだけで、巷で売られているアベンチュリンとはだいぶ異なるものです。
ジャコビナ層群の分布からも、ブラジルのアベンチュリンの出どころとしてはかなり有望な地層ですが、結構広い分布範囲を持っており、どのくらいの範囲で売り物になるクオリティのアベンチュリンが出てくるのか、また、なぜアベンチュリン鉱山やアベンチュリン採掘場の情報がこれほどまででてこないのか、気になることはまだまだ残っていますね。
自分としては、アベンチュリンの鮮やかな緑色の岩石からなる露頭がドーーーンと現れているところの写真が見てみたいものです。
ところで、その一方、アマゾンでは中国のアベンチュリンなる謎の存在が現れたりもしています… これはいったい、中国"産"なのか、中国"製"なのか???
もし中国"産"なら、中国にも太古代の地塊はあるので、一体どこで採掘されてきたものなのか。。。
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