ベスブ石は石英や磁鉄鉱と共存するか?


Twitterで以下のような問題を出してみました。

問1 ベスブ石は石英と共存するか?
問2 ベスブ石は磁鉄鉱と共存するか?

投票の結果は以下の通りです。けっこう接戦ですね。




これらの問題に対して、熱力学的計算などをしたわけではないですが、組成式から元素のお気持ちを考えることで回答を試みたいと思います。

↑秩父鉱山のかわいいベスブ石。

ベスブ石と石英の共存? -たぶんない

ベスブ石の組成は、Ca19Fe3+Al4(Al6Mg2)[O|(OH)9|(SiO4)10|(Si2O7)4]とかなりややこしいことになっています。
これを結晶学的な構造を考えずに簡単に書くと、 Ca19Fe3+Al10Mg2Si18O62(OH)9 と表すことができます。
ベスブ石の組成において、カルシウムとケイ素の比率を見ると、Ca:Si = 19:18とカルシウムの方が多いことがわかります。これはなかなかです。
また、金属イオンの合計にするとM:Si=32:18となります。 これはM:Siがカンラン石の2:1に近く、ベスブ石がシリカに乏しい鉱物でもあることがわかります。
どちらかというと、ベスブ石はシリカに乏しいというよりもCaにめちゃくちゃ富むという方がポイントのような気がします。

ベスブ石に近い組成をもつ鉱物として、カンラン石グループのモンチセリ石や、ゲーレン石とオケルマン石の固溶体であるメリライト(黄長石)などが挙げられます。これらの鉱物はベスブ石が加温され脱水すると生じるとされています。いずれも、ベスブ石より高温で形成されるスカルンでよく見られる鉱物ですね。

モンチセリ石monticellite
CaMgSiO4
Ca:Si = 1:1
M:Si = 2:1

ゲーレン石 gehlenite
Ca2Al(AlSi)O7
Ca:Si = 2:1
M:Si = 4:1

したがって、このようなシリカに極めて乏しいベスブ石が、石英と共存することはないと考えられます。
単一の試料のなかにベスブ石と石英が両方入っていることは多々あると思いますが、その場合、境界部分には灰礬柘榴石Grossular斜灰簾石Clinozoisiteなど中間的な組成の鉱物が生じているはずです。

ベスブ石と磁鉄鉱の共存? -たぶんこれもない??

さて、こちらの問題の方が少し難しいです。
ベスブ石のカルシウムにめちゃくちゃ富むというところから考えてみると、Fe単体酸化物である磁鉄鉱との共存も難しいんじゃないかなと思います。
上記のベスブ石の組成を見ればわかるように、Ca:Fe = 19:1となり、めちゃくちゃFeに乏しい鉱物ということになります。
すると、磁鉄鉱との共存はやはり難しく、中間的な組成の鉱物として、緑簾石や斜灰簾石、灰鉄柘榴石、灰鉄輝石などが生じるように思われます。

緑簾石 Epidote
Ca2(Fe3+, Al)Al2(Si2O7)(SiO4)O(OH)
Ca:Fe=2:1

灰鉄柘榴石 Andradite
Ca3Fe2[SiO4]3
Ca:Fe = 3:2

灰鉄輝石(ヘデンベルグ輝石) Hedenbergite
CaFeSi2O6
Ca:Fe=1:1

ベスブ石はスカルン鉱物としてよく知られていますが、黄鉄鉱を始めとする金属硫化鉱物などと共存しないというのはよく言われています。これは似た見た目を持つ灰礬柘榴石とはだいぶ異なる性質です。ここにも、ベスブ石はCaにめちゃくちゃ富んだ鉱物であるという点が影響しているのかもしれません。

というわけで、こちらからの答えは問1,2いずれも「共存しない」とさせていただきます。

ただし、ここで行ったような鉱物の化学組成と元素の多い少ないの関係は必ずしもいつでも対応しているわけではないので、一般化できる法則のようなものがあるわけではないです。
そういう傾向があるくらいのものです。
酸化還元やその他元素との兼ね合い等があるので、実際には"条件次第"としか言いようがありません。
考察するアテをつけるくらいにはなるとは思いますが、厳密に証明できる考え方ではないです。

ですので、今回の私の回答に対して、もし反例をお持ちでしたら、ぜひ教えて下さい!


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