地質学雑誌2020年10月号に和文で掲載された論文がJ-STAGEで公開されたので、いろいろと裏話をブログに書いていきます。
前回のブログ記事はこちら →
東京都産古生代造山帯断片の裏話 (1/n) 「カンブリア紀の石」とはなにか
論文はこちら↓
沢田 輝, 磯﨑 行雄, 坂田 周平. (2020). 東京都産古生代前期造山帯の断片:関東山地東部,黒瀬川帯高圧型変斑れい岩および花崗岩類のジルコンU-Pb年代.地質学雑誌, 126, 551-561.
https://doi.org/10.5575/geosoc.2020.0026
今回はメインの話題になっている
紫のローソン石についてです。
実は、この東京都産古生代造山帯断片の研究は青色片岩がメインではなく、今回の論文ではオマケ扱いされている花崗岩類のほうがメインでした。
私の指導教員だった
磯○先生が
Aoki et al. (2015)の名南風鼻の花崗岩や
小山内ほか(2014)のように古いインヘリテッドジルコンを含んでいるような花崗岩を探したい!とのことで始まりました。
まぁ
花崗岩類はあったものの、論文に載せたとおり、そんな古い
ジルコンは含まれていなくて、地質学会で発表はしたもののその後しばらく放置され続けてしまいました。
沢田輝, 磯崎行雄, 坂田周平. (2016). 東京都日の出町坂本地域の黒瀬川帯蛇紋岩メランジュ中の 430-450 Ma 花崗岩類ブロック. In 日本地質学会学術大会講演要旨 第 123 年学術大会 (2016 東京・桜上水) (p. 367). 一般社団法人 日本地質学会. https://doi.org/10.14863/geosocabst.2016.0_367
最初に現地に石を取りに行ったのは2016年春のことです。前回のブログ記事で紹介したように、現地はヤブの中で石もよく見えない場所なのですが、白っぽい花崗岩類のような石をささっと適当に5,6個くらい拾ってきました。
すごいでかい塊で持って帰ってきてしまって、ボコボコ割ってしまったのですが、すると、
花崗岩だと思って拾った白っぽい転石の中にうっすらと紫色の部分があるじゃないですか!
母岩は黒く見えるけどよくよく見ると濃青色、つまりこれは
青色片岩のような低温高圧型変成岩だと思われました。
低温高圧型変成岩まるで無知なD1当時の私は、白色の塊の一部に紫色の部分のある低温高圧型変成岩の鉱物といったら
ラベンダーひすい!と思って心ウキウキワクワクしてしましました。
糸魚川の有名な
ラベンダーひすい(紫色のTiを含んだヒスイ輝石)はこんな感じです↓
フォッサマグナミュージアムの展示品のラベンダーひすい。確かに色はくすんでいるもののちょっとそれっぽい?
わけも分からずに薄片を作ってみる。ちなみに、論文に載ってる薄片の二次切断した残りの石の写真が以下のものです。薄片にすると白とか紫とか色の違いは全くわからない。
で、薄片を作って見てみても全くわからない…。
全く別件で科博に行ったときに、この石のカケラと薄片を持っていきました。たまたまその日は大M先生、中M先生、小M先生と3人鉱物先生衆が揃っていたので見せたところ、ちょっとヒスイっぽさがあるので興味を持っていただいて、薄片のSEM-EDSで分析してみたところ…。
見事にCaとAlが出てきました。ヒスイ輝石じゃない!
そこまで出てもよくわからんな、と思ってる私や中M先生に対して、小M先生が
ローソン石という答えを見つけてくれました。たしかにカリフォルニアのローソン石結晶の色合いにも似ている!
同定していただいた流れで、3M先生たちから「よう兄ちゃん、良いもん持ってんじゃねぇか😆いいなぁ~~~いいなぁ~~~~~~~」と言われてw、カケラの一部を科博の収蔵品として献上させていただきました。
そこらへんのコピー用紙を使って、すごい雑な手書きラベルを渡してしまったのですが、もうちょっとかっこいいラベルで献上すればよかったと若干後悔するなど。
それはさておき、論文に載せた石と同一部分のローソン石が以下の部分です。画像幅約15cm。
ちなみに、以下のものは最初の原稿で載せていた写真。ローソン石が脈になってるのかどうかこの写真を見てもわからんからダメ、とレビュワーの方に言われたので、上の写真に変更しました。全くそのとおりだと思います変更してよかったです。
さて、実は上記のSEM-EDSは定性的にちゃちゃっとやっただけで、ちゃんとデータは書き出していなかったんですよね。
そこでレビュワーの方から、「この薄片と写真でローソン石とは断定できない。
ぶどう石では?ちゃんとデータを取りなさい」とご指摘を頂いたので、ジルコン分離をした残りの砂で粉末XRDをしました。
その結果は論文の図に載せたとおり、ローソン石と藍閃石のピークがちゃんと出てきて、めでたしめでたしとなったわけです。
論文に載せた粉末XRDのデータは無作為に残渣の砂を粉末にして分析したものですが、実は論文には載せなかったものの、紫色の部分だけをわざわざ選び取って測ってみたりもしていました。
これをこうして、
こうじゃ。
結果は、バルク分析のものとほとんど変わりませんでした。結局、白いところも、薄緑色のところも、全部ローソン石のようです。疑われたぶどう石のピークは全く見つかりませんでした。
この東京ローソン石の一部を、東北大の学生の方にお分けしたところ、卒論で活用していただけたみたいです。本当にありがとうございました!論文たのしみにしてます!
そういうわけで、東京ラベンダーヒスイにならなかったものの、きれいな
ローソン石が見つかってよかったね、というお話でした。
次回は「消されたサンプルSKMT5」ということで、「この石が花崗岩なのか堆積岩なのか現在の我々の技術ではわからない!」というお話をするかもしれません!
コメント
コメントを投稿