地質学雑誌2020年10月号に和文で掲載された論文がJ-STAGEで公開されたので、いろいろと裏話をブログに書いていきます。
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東京都産古生代造山帯断片の裏話 (1/n) 「カンブリア紀の石」とはなにか
東京都産古生代造山帯断片の裏話 (2/n) 『"東京ラベンダーひすい"ではなかった…紫色ローソン石』
論文はこちら↓
沢田 輝, 磯﨑 行雄, 坂田 周平. (2020). 東京都産古生代前期造山帯の断片:関東山地東部,黒瀬川帯高圧型変斑れい岩および花崗岩類のジルコンU-Pb年代.地質学雑誌, 126, 551-561.
https://doi.org/10.5575/geosoc.2020.0026
この論文は、低温高圧型変成岩のローソン石脈が(サンプルSKMT9)がメインで、2つだけおまけに花崗岩類(サンプルSKMT2, SKMT3)のデータも載せています。
しかし実は、査読前のもともとの原稿にはサンプルSKMT5というものも入っておりました。当然、ジルコン分離して、年代測定もしてあります。
査読前のFig.を示すと、こんなかんじです。
試料の写真、上からSKMT9(ローソン石)、SKMT2、SKMT3(花崗岩類)、そして正体不明のSKMT5となっています。SKMT5、赤茶色なんですよね。
ジルコン年代分布もなんかSKMT5とSKMT2、3ではちょっと違う。
薄片を作って見てみても、変質や変形が著しいのでいまいちよくわからず。。。
最初の原稿では解釈として、
「試料SKMT 5のジルコン年代は, 上述の試料SKMT2, 3のものと同様, 主に500-420 Maの範囲に集中する. しかし, 火成岩起源とみなされるSKMT2, 3のジルコンが約440 Maに集中するのに対し, SKMT5のものは特定年代へ集中しない(Fig. 5)ことから原岩は砕屑性堆積岩であったと推定される. また, 先カンブリア紀ジルコンもSKMT2, 3よりも顕著に少ない.
試料SKMT5の年代分布と類似するジルコン年代分布をもつ砕屑性堆積岩として, 高知県中西部の黒瀬川帯に産する下部シルル系五味層の砂岩(長谷川ほか, 2017)がある. 五味層はオルドビス紀-シルル紀花崗岩類を直接不整合に覆うアーコーズ質砂岩からなる(吉倉・佐藤, 1976; 安井, 1984). 本試料の原岩は, 五味層に対比される砂岩であったと推定され, 黒瀬川帯の各種古生代岩石と共に蛇紋岩メランジュに捕獲岩的に捉えられた可能性が高い. 」
などと書いていました。
しかし、査読者から、ジルコン年代分布だけを根拠に岩石の種類や起源を決めるのはどうなのよ?というツッコミは当然入ってしまいました。さらに、こんな正体不明の石はこの論文のメインたる低温高圧型変成岩の話題の邪魔にしかならないので、消しちゃえば?、というご提案も。完全にそのご提案に従って、リバイズ時に原稿からSKMT5は消滅しました。
実際、花崗岩(特にSタイプの花崗岩)と砕屑岩起源変成岩(
片麻岩など)や淘汰の悪い花崗岩質な砕屑岩との区別は大変むずかしいのですよ。
どのくらい大変かというと、
・
砂岩や
泥岩からの捕獲結晶を含んだ花崗岩
・砂岩や泥岩が溶融してできた
Sタイプ花崗岩
・砂岩や泥岩が著しい変成・変形を受けてできた準片麻岩
・砂岩や泥岩からの捕獲結晶を含んだ花崗岩が著しい変成・変形を受けてできた
正片麻岩
・砂岩や泥岩が溶融してできたSタイプ花崗岩が著しい変成・変形を受けてできた正片麻岩
・花崗岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩
・花崗岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩が著しい変成・変形を受けてできた
準片麻岩
・花崗岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩が溶融してできたSタイプ花崗岩
・花崗岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩が溶融してできたSタイプ花崗岩が著しい変成・変形を受けてできた正片麻岩
・砂岩や泥岩からの捕獲結晶を含んだ花崗岩が著しい変成・変形を受けてできた正片麻岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩
・砂岩や泥岩からの捕獲結晶を含んだ花崗岩が著しい変成・変形を受けてできた正片麻岩直上を不整合に覆う砂岩や礫岩が溶融してできたSタイプ花崗岩
・・・以下略・・・
となっていくわけです。
そういうわけで、
『この石が火成岩なのか堆積岩なのか、それすら我々の科学力では分からないんだ』とムスカみたいな顔しながら言わざるを得ない状況にしばしば追い込まれます。
もしこのSKMT5に興味のある方、石もデータも差し上げますので、どうか研究してあげてくれませんかね。もう僕の手には負えませんわ…
以上、3回にかけてダラダラと書いてきましたが、『東京都産古生代造山帯断片の裏話』はこれで一旦終了とさせていただきます!
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